私にとって村上春樹の作品は人生の一部である。
13歳に『ノルウェイの森』に出会って以来、これまでの22年間私の傍らにはいつも彼の作品があった。
私が自分の内にある感情を言葉にできない時は代弁者のごとく言葉に表してくれたし、私がひどく孤独だったり混乱した時は心地良い世界を提供してくれもした。
それぞれの作品にそれぞれの思い出という過去がある。読み返す度にその頃を思い出す。その時の思い出が私の心を過り、その時の自分をまざまざと思い浮かべることができる。
自分と共に歩んでいるモノというのはそんなにないような気がする。
私は私の人生に村上春樹という偉大で素晴しい作家が存在してくれたことをとても幸せに思う。
『海辺のカフカ』と『1Q84』はとても似ている。構成も内容も引用も、似ている。
確固たる愛、それを自らの命に代えても貫き通そうと思う女性、死を望む男、物語を進行するための人物、現実からずれたもうひとつの世界、大きく言えばほとんど同じというくらい似ている。
でも、私は海辺のカフカでは泣き、1Q84では泣かない。
インスパイアされて描く私の絵だって全然違う。
前者はひどく静かなのに対し、後者はひどく騒々しく荒々しい。
たぶん、だから、私は前者が好きなんだと思う。
静かでひっそりとしていて、ひしひしと伝わる何か。誰の心にもあり誰もが共感できるセンチメンタルな部分。私にとって特別な意味合いを持つ記憶についての捉え方。そして死の表現がとにかくいい。
佐伯さんに共感し、カフカ少年に自分を重ねる。
大島さんが所有する森の中の山小屋は私がよく使う長野の山に在るログハウスに重なり、森の記述は私がそこでひとりで居る時に感じることに重なる。
ナカタさんを尊敬し、ホシノ青年に励まされる。
そして何より、大島さんはとてもいいことを言い、カフカ少年同様私もその言葉に救われ、その言葉を心に刻んでおこうと思える。
久しぶりに読んで、山に籠りたくなった。(もちろんそんな時間はいまのところないけれど)
それから、本来の私から少しずれかけていたのが、これまでの私を思い出して少し元に戻ったような気がする。