『氷平線』が良かったので、直木賞をとった『ホテルローヤル』を読んでみた。
眠るために読み始めたのだが、結局眠りにつく前に読み終えてしまった。
おもしろかったけど私は『氷平線』の方が好きだ。
題名の通り『氷平線』の方は氷のように冷たく、『ホテルローヤル』はラブホテルらしく生きている熱がある。
熱があるとはいえ『氷平線』を書く桜木さんらしく、「負」や「腐」と呼ばれるような冷ややかなものも織り込まれている。
ホテルローヤルをめぐる7つの短篇。
廃墟となったホテルローヤルから開業前のホテルローヤルへと遡ってゆく作りはおもしろい。
それぞれの話が最後の話につながっていたり、所々でそれぞれの人間の生が重なるようにしているのもいい。
そしてどの話もよくできていてどれもおもしろい。
<輝く未来を夢見る男、これから建てるホテルローヤル、出産祈願にみかんを与える>という最終話と、<挫折という言葉ばかりを発する男、廃墟となったホテルローヤル、ヌードを撮るために食を絶たせる>という最初の話、というように尾頭を対極させるという形が非常に効いている。
廃墟から竣工前というとどんどんと明るくなっていくように思われるが、私は却ってそれが虚しさを際立たせているように感じた。
未来を夢見ている男が哀れに思え、明るい将来を期待する姿が滑稽にさえ思える。
人間の一生などというものは所詮そんなものだと思い出させる。
それでも人は一生懸命自分の人生を生き、夢を見る。
いつかは朽ち果ててしまうということ、人は老いてゆくということ、そしてかならず死ぬということ、そういうことが露にされているように感じた。
そして、物が朽ち人は死んでも時間は流れ続けていくということも。
『平家物語』の冒頭や『方丈記』の冒頭を思い出す。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらわす
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
この本のことを後々考えているとどうしても古の日本の侘び寂びや無常観を思ってしまう。
生まれること、生きること(生活と労働)、男と女のこと、家族、親子、そして死。
全てのことがこの1冊に詰め込まれている。
本当によく出来た本だと思う。