一人称の長い独白、若さ特有の心情、深い部分への疑問。
そういうところが太宰を思い出させました。
人間の記憶の曖昧さについて、他者との関わりというものについて、思いというものについて、五感というものについて。
小説の時代は現代であっても主題は時代を問わないもので、けれども書き方は斬新さがあって、新しい小説だと思います。
まだ若い作家さん(1982年生まれ)なのに本当にすごいと思います。
要らないなぁと思う部分も多々あったけれど、それでもとても良い作品だと思いました。他の作品も読んでみたいと思いました。
過去がどんどん長くなっていくことを、ちゃんと考えていなかった。考えて見れば迂闊なことだが、そんなこと本当に思いもしなかった。(p35)
同じ言葉であってもその声によって意味は変わる。声によって言葉の意味が変わるのではなくて、声が言葉から意味を葬って音だけになってその音を聞くということか。その声は、音は、時間が経つと消えてなくなる。言葉と文字だけが消えずに残る(p59−60)
思い出される過去を、今という時間でなく、過去の時間のままに思い出すことはどうしてできないものか。(p62)
過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。思い出されるのは知っていることばかりで、思い出せば出すほど、記憶は硬く小さくなっていく。(p109)