2015/11/06

桜木紫乃『霧 ウラル』(20115年 / 小学館)


マンガみたいな装幀、ソフトカバーでフランス綴じ。
こういう装幀じゃないと若い人に手に取ってもらえないんだろうなぁ。

物語は海運業界のヤクザの話。
昔の知り合いがこの業界にちょっと関わっていたのでその人のことを思い出しました。海はヤクザの管轄だから、話をしに行く時は強面にして出かけて行くとその人は言っていました。私はあまり良く分かっていなかったけれど、この本を読んでその世界が少し分かったような気がしました。

前回読んだ『ブルース』もイケメンヤクザの話だったけれど、今回もイケメンヤクザです。そしてその男に惚れる女が語り手です。

そういう特殊な話なので、苦手な人や読みにくい人も多いのではないかと思いました。
時代は昭和30年代、舞台は北海道根室。
主人公の女性は地元名士の娘で、家出をして花街で働き、ヤクザな男と結婚して姐さんになる、という人生は入り込みにくいように思います。
でも、小説なのだから、これくらい突飛な方がいいのかも知れません。映画とかドラマとかならこのくらいでないと面白くないのかも知れません。

感想は、珍しく何もないです。
物語は面白かったけれど、なんにも思わなかったです。物語を物語として楽しんだだけです。物語から何か心に強く感じるというのはまるで無かった。

でも、桜木さんの文章が良いので(空気感が素晴しいので)どんどん読み進められました。自分も主人公と同じ時同じ場所にいるように読めました。
それはやっぱりすごいことです。

2015/11/05

磯崎憲一郎『電車道』(2015年 / 新潮社)


 鉄道開発を背景に
 日本を流れた
 百年の時間を描く
 著者最高傑作。

と、帯にあります。確かに「鉄道についての歴史と百年の間の物語」でした。
でも、「電車道」というほど鉄道開発の話というわけではありません。私としてはもっと鉄道に沿ったの方が知らない事を知る楽しみがあってよかったように思います。

途中、ねじめ正一さんの『荒地の恋』を読んでしまい、そちらがものすごく良かったので、戻って来てから何だか物足りなく感じました。『荒地の恋』が実在の詩人・北村太郎の本だったので、『電車道』の人物たちが薄っぺらく感じました。
その前には滝口悠生さんの『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』を読んでいて、こちらが作家の伝えたい思いが情熱を持って溢れていたので、『電車道』の淡々とした物語が物足りなく感じてしまいました。

電車が走り始める頃からの百年の間の話、という意外に何もないのです。
何人もの登場人物が少しずつ繋がってはいるのですが、そこに意味があるわけでもなく、言うほど電車と関係もない。
何というかバラバラとしている感じでした。

文章が読みやすく丁寧なので、面白く読めましたが、私は先の2作の方が良かったです。
鉄道会社を興す男の話は小林一三を思い出しました。