この対談は、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』というタイトルである。だから、もうすぐ絶滅するという紙の書物についての内容なのかと思って読んでしまう。
ところが、内容は想像するものとはだいぶ違う。愛書家として本や言語や芸術について語り合うという感じだ。
私は本のタイトルから勝手に電子書籍とこれまでの本というものについての(プラスそこから広がっていく書物というものについての)対談なのかと思ってしまっていた。人はだいたいのことにおいて、予め予測をたててしまうものである。私もすっかり勝手に予測してしまっていた。だから実際に読んでみると、どうしてもしっくりこないのだ。一体何の話をしているのだろう?と読みながらちょこちょことクエスチョンマークが浮かんでしまう。だから対談自体はものすごくおもしろいのに、おもしろかったと言いにくくなってしまう。騙されたとまでは言わないにしろ、ちょっと拍子抜けというか、本としての仕様にすっかりやられてしまったという感じがする。
あとがきを読むと、もともとこの本のタイトルは『N'espérez pas vous débarrasser des livres, Grasset & Fasquelle, 2009』直訳すると『本が離れようったってそうはいかない』というらしい。こっちのタイトルだったらよかったのにと思う。デジタル元年に『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』というタイトルで出すのはやっぱりちょっとズルい感じがする。カッコイイ本だし私のようにうっかり手を出す人が沢山でてくる。まぁ内容自体はおもしろいから、いいといえばいいのかもしれないけど。
私はこの本を読んでいて、度々、佐々木中の『切りとれ、あの祈る手を』を思い出した。
どちらも、文学 → 言語 → その起源(宗教、<読む>ことから始まるムハンマドの『コーラン』や『聖書』)、伝わり残るもの、というような相似した内容だと思った。
古い本で今でも読まれ続けている本について(残り続ける本ということで)エーコとカリエールはこう言っている。
「時の流れの中で解釈が豊かになる。人類はずっと以前から生きていて、人類の記憶は書物に添加され、混入する。」と。
なるほどそうだと思う。
この本には、そういう「そうだよな」「なるほどな」と思えることがたくさんある。
終盤からは、本の良さや書棚や図書館の齎す効用など、本をたくさん持つ人の気持ちや拾集する人の気持ちなどがよく分かる話が続く。
私も本に囲まれて暮らすのが憧れである。壁一面の本は落ち着くというか安堵感がある。
これについてとてもいい文章がある。
C:私のある友人は、時分の蔵書を暖かい毛皮に喩えていました。本があれば、間違えたり、迷ったりしないだけでなく、凍えることもないんだそうです。世界じゅうのあらゆる概念、あらゆる感情、あらゆる知識、そしてあらゆる間違いに囲まれることで、安心と安全の感じが得られるんですね。書庫にいれば寒くありません。書物が無知という危険な霜から守ってくれます。(p409より)
C:私はよく、本のある部屋へ行って、ただ本を眺めて、一冊も手に取ることなく出てくることがあります。言葉では言い表せない何かを受け取って戻ってくるんですね。不思議ですが、ほっとする一時でもあります。
E:公共の図書館や大型書店で同じような経験をすることがあるかもしれません。棚に並べてある本の匂いを嗅いだだけで、幸せな気持ちになる。それが自分の本でないとしてもです。(中略)本を眺めることでそこから知識を引き出すんです。まだ読んだことがないそれらの本は、何かを約束してくれるようです。(p420-421より)
素晴しい愛書家ふたりの様々な話は本当に面白い。
予測は立てず、愛書家ふたりのつれづれなる対談として読むべき本。
もしくは、エーコやカリエールのファンという人にはいいと思う(ふたりがどんな本を蒐集しているのかが分かるし、ふたり自身のことがよくわかる)。
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最後に心がけようと思った引用(メモ)
C:本棚は、必ずしも読んだ本やいつか読むつもりの本を入れておくものではありません。その点をはっきりさせておくのは素晴らしいことですね。本棚に入れておくのは、読んでもいい本です。あるいは、読んでもよかった本です。そのまま一生読まないのかもしれませんけどね、それでかまわないんですよ。(p382)
C:「目利き」に任せるという方法もあります。自分より見る目があって、自分の好みをよく知ってくれている誰かを頼りにするんです。(p384)
C:書物の場所を時々入れ替えることは私は必要だと思います。そういう習慣を持っていてほしいし、持つことを勧めます。(p412)
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