2011/10/25

いしいしんじ『四とそれ以上の国』(文藝春秋)




この本のレビューで、ある人が
「『ポーの話』以降の模索の先の一冊、という気がする。(略)うーん、そっちにいくのか。」
と書いていた。私も同感。

私は『ポーの話』は好きだった。でもこの『四とそれ以上の国』は模索の一冊という感は否めない。
『ポーの話』では全体的にファンタジーと清廉さでまとまっていたのに対し、『四とそれ以上の国』は不思議設定の世界と現実感的な描写がちぐはぐな感じがした。
ファンタジーと清廉さを脱却しようとしているのが伝わる。より人間くささを出そうとしているのが伝わる。
だけど、それが、私としては私の好きないしいさんではなくて残念だった。読むのがしんどかった。

私はいしいさんの物語を読むとパウル・クレーの絵を思い浮かべてしまう。
美しい様々な色彩を感じるし、物事を形どおりに描かないという部分がそう感じさせるのかも知れない。
何が描かれているか見えるのではなく、感じる作品。

現代社会の細事による感情じゃなくて根本のところの感情がいしいさんの作品にはある。
現実社会で生きている私たちじゃなくてもっとずっと太古の人間の有様のような、そういう人間の本質の世界を感じる。しかも人間の善の部分。

この『四とそれ以上の国』はこれまでのいしいさんに人間の血なまぐさい部分を少し足したような作品だと思う。

『四とそれ以上の国』は『塩』『峠』『道』『渦』『藍』という5つの短篇から成る四国を舞台にした本。
短篇なんだけれど、四国という繋がりによって長編のような感じもする。
私はとくに『道』がしんどかった。

やっぱりいしいさんの作品なら『ぶらんこ乗り』『プラネタリウムのふたご』がいい。