表情が豊かになり、よく笑うように。 「ア〜」とか「ウ〜」とか喋るようにもなりました。 それがまたかわいい! |
おめめがぱっちり開くようになり、目が見えるようになりました。 |
<実存的生を描き切った、静かに読者を襲うまったく新しい純文学>とある。確かにそういう感じでもある。こういうトーンの小説は好き。
小説が人間によって人間のためにだけ書かれるものだと思い込んでいる人にとって、この小説は「?」の塊か苦痛以外の何物でもないことになってしまうだろうけれど、それは小説が個人の悲しみや喜びを書くものだと思い込んでいるその人が悪い。きっとそういう人たちは、カフカもガルシア=マルケスも深沢七郎も読んだことがないのだろう。
小説というのは自分のサイズで判断するようなちゃちなものではなく、読者として努力してその世界に接近するものだ。こういう小説を書く人が日本にもいてくれることが僕は心からうれしい。
人物習作Ⅱ 1945-1946年
Figure Study Ⅱ カンヴァスに油彩 145×128.5cm
Huddersfield, Huddersfield Art Gallery,
Kirklees Metropolitan Council Permanent Collection
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そのとき彼はようやくすべてを受け入れることができた。魂のいちばん底の部分で多崎つくるは理解した。人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、痛切な喪失を通り抜けない受容はない。それが真の調和の根底にあるものなのだ。(307pより)