2014/03/04

『サランボオ』フロベール(神部孝 訳 / 角川文庫)


最初少し読み難かったが、気付くとずんずん読めるようになり、すっかり作品に没頭してしまった。
物語がどうこうよりも、文章や言葉が惹き込ませるという感じだった。
有名な作品だけど、有名がゆえに読んでなかった(そういうのものは山のようにある)が、とてもおもしろかった。

第一次ポエニ戦後のカルタゴとカルタゴに反逆する傭兵たち(蠻人たち)との戦いを主に、カルタゴ側の主宰ハミルカル・バルカ(アミルカアル)の娘サランボオと彼女に恋をした蠻人側主宰マトオの物語である。

はるか遠くの古い時代の話なのに、苦もなく映画を観ているような感覚で読めてしまった(旧仮名なのでそれが苦手な人は読めないかもしれないが)。
実際映像にすると残虐的すぎるような場面ばかりだが、その時代の色々なものがとても興味深かった。
読み終えてからも大勢の人々の声や喧噪、戦で上がる砂埃、血の匂い、腐敗臭、マトオの声、サランボオの肌、色々なものが残像として私に張り付いている感じがしている。

途中、ふと『サロメ』を思い出した。当時(といっても『サランボオ』が1862年『サロメ』が1891年で30年ほどの差があるが)は、こういう強裂な愛憎を呈する恋の形が流行ったのだろうか。
挿絵は『サロメ』のビアズリーの方が好きだけど。
ともあれ、なかなか良かった。


最後にミュシャの描いたサランボオを添付。