2014/06/04

葛西善蔵『子をつれて』(iBooks)

悲惨な話なんだけど、主人公がダメ人間のせいでそんなにせつなく感じない。いや、そんなことないかな、やっぱり哀しいかも。
お金がなくて働かない主人公。友人からお金を借りまくり、友人を失くす。それでも働かない。借りた金で酒を飲む。奥さんに逃げられて、ふたりの子供と一緒に家を追い出されてしまう、そういう話。

田村俊子『木乃伊の口紅』・岡本かの子『鶴は病みき』(iBooks)

田村俊子さんも岡本かの子さんもはじめて読んだ。
読んでない作家さんは山ほどいる。
周知の通り、かの子さんは太郎さんのお母さん。それでなんとなく敬遠していたのだが、読んでみたら案外好きな文章だった。淡々としていていい。
この『鶴は病みき』の鶴はたぶん芥川龍之介のことのように思う。容姿の描写と人生が芥川を思わせた。


田村俊子さんの方は、林芙美子に近い印象だった。弱いのにたくましい。
男性と同じようにたくましく生き、女性なのに普通に男に殴られたりする。でも今のDVみたいな感じとは違って怯えたりしない。言いたいことを言い、殴られ、また言い合う。対等でありながら殴られるという不思議。
この時代の女性は現代の私たちには理解できないところもあるけれど、たくましくて感心する。

2014/05/28

『新版 放浪記』『風琴と魚の町』林芙美子(電子書籍ibooks)


林芙美子さんを初めて読んだ。
林芙美子さんといえば放浪記で、放浪記といえば森光子さんということくらいしか知らなかった。

読んでみて、感想は微妙。
おもしろくないわけではないんだけど、日記風な(◯月×日)という一節の内容が飛び飛びで、しかも時間の経過もまちまちで、全体の流れということでいえばわりとひどい作品。でもひとつひとつは悪くない。こういう場合どう評価したものか、と思う。

難しいことは一切書かれていないので、読みやすいという点では読みやすい。一節一節はおもしろい。でも同じことを何度も繰り返されて苛々もする。
なんていうか、ひっちゃかめっちゃかな感じ(それがウリなのかもしれないが)。

『放浪記』のあとに読んだ『風琴と魚の町』もほぼ『放浪記』と同じ。芙美子の幼い時の話。まぁこちらも微妙だけど短いのでこちらだけ読んだら好評価をするかもしれない。あとに読んでしまったから評価が下がっている気がする。


両方ともに出て来る方言の会話(九州、四国、岡山あたりの言葉)が出て来るのだが、私はよくわからなかった。

色々な作家(交流があった人や、読んでいる作家など)の名前が出て来るのはとても興味深かった。

2014/05/07

『帰ってきたヒトラー』ティムール ヴェルメシュ(訳:森内薫 / 河内書房新社)


読みたかった『帰ってきたヒトラー』が、Kindleの電子書籍で単行本より安かったので読んだ。
2月の時点では電子書籍になっていなかった。

「おもしろい」という言葉は難しい。私が言う「おもしろい」と、別の誰かの「おもしろい」は必ずしも一致しない。

たとえば、私の旦那さんは脚本のような本をおもしろいと感じる。スピーディな展開で、会話で成立していくようなもの。池井戸潤さんの半沢直樹シリーズとか、三谷幸喜さんの清洲会議とか。
私もそれを読ませてもらった。確かにおもしろい。ぐんぐんずんずん読める。

では、そういう「おもしろさ」と、この本の「おもしろさ」は同じかというと、違うように思う。

だから、旦那さんに「僕は読める?おもしろかった?」と聞かれると困ってしまう。
歴史ものを読む気持ちで取り組むと良い思うが、三谷幸喜さんの本のような気持ちで読み始めるときっと重く感じてつまらないと思ってしまうんじゃないかと思う。
それに、歴史をある程度知っていないとこの本がやりたいことが理解できないと思う。

噛み合ないことの滑稽さがおもしろいというように何かに書いてあったような気がするのだけど、私はそうは思わなかった。
この本に滑稽さなんて私はちっとも感じなかった。

『帰ってきたヒトラー』の「おもしろさ」が何なのか考えてみると、強い意志を持ったブレないヒトラーがこの現代に生き返るという設定そのものがおもしろいのだと思う。
それから、現代人への皮肉。

ヒトラーの目線で現代を見る。
現代は便利になって幸せになったのか。
政治は本当に国民のためを思って行なわれているのか。
そんな現代に対してヒトラーは「今のこの世の中を救うために生き返ったのだ!」と使命感に燃える。(←もうこれだけでおもしろいとも言える)

本の中のヒトラーにはとても好感が持ててしまう。しかもいい人でみんなから愛されるキャラクター。
だからこの本は「おもしろい」。

ヒトラーは残虐且つ非道な行ないをしたけれど人を惹き付ける魅力的な人間でなければ総統になんてなれなかったはずだ、という書き方をしている(もちろんその通りだと思う)。
ヒトラーは、ただただ国を良くしようと国民を守ろうと情熱を持って頑張る。
きっとこんな感じだったんだろうな、と思う。そう思うことが「おもしろい」のだと思う。


2014/04/26

『女のいない男たち』村上春樹(文藝春秋)


信濃八太郎さんの装画が素敵。こういう質感、好き。どうやって描いているんだろう。

村上春樹さんの本を読むと、いつも、忘れそうになっていた心持ちや存在が濃く甦ってくる。
そうして、苦しくなって、せつなくなる。

Amazonのレビューでは、かなり辛口な評価もあったし、それに賛同する人もいたけれど、私はやっぱり村上さんは好き。
確かに、昔に作品と較べると、なんていうか、弱くなったような気はする。それでもやっぱり村上さんにしか書けない世界があると思うし、村上さんらしさは健在であるとも思う。

村上春樹さんの言葉は、普通に暮らすのが困難だったり、大切な人を突然失ったり、誰にも言えない心の瑕を持っていたりする孤独な人に沁み入るのではないかと思う。
そういう人が村上さんの言葉に触れると、「あぁ、わかるなあぁ」としみじみ感じ、救われるのだと思う。
つまり、ハマる人にはハマり、ダメな人にはダメという感じがする。

私はいつも村上さんの言葉に強く揺さぶられる。
心臓と胃がぎゅうーっと締め付けられる。

今回のお話も私は共感するところが多かった。
愛した人に裏切られて拒食症になり死んで行く男の気持ちも、電話で愛した人の死を聞く気持ちも、
すごく、わかる。
大切な人が突然いなくなるということ、それによる孤独、そういう心の表現が村上さんは本当にうまい。
村上さんが言葉にしてくれてはじめて自分の心の気持ちを言葉にするとそういうことなんだと気付くことができる。
たとえば、私なんかはそういう様々な感情は絵でしか表現できない。うまい言葉が見つけられない。うまい比喩も分からない。でも村上さんは言葉でそれを表現する。そして絵よりも言葉の方が誰にでも伝えられて、わかりやすい。
これほど上手に心を文章にできる人はいないと私は思う。
そしてそれが村上ワールドなのだと思う。

だから、昔より劣ったとか変わったとかいう人がいても、私はさほどそうは思わなかった。
一冊の中にひとつでも「あぁ、そのとおり」と思えるところがあれば、それはすごいことだと思う。
私が一番印象に残ったのは、愛する人を突然失った孤独はあなたの身体に深く染み込んでいく。それはまるで淡い色の絨毯にこぼれた赤ワインの染みのように、というようなくだり。その染みは時間とともに多少は薄くなっても自分が死んでしまうまで消えることはないという話。
とても、とても、よくわかる。

終えてしまうのがもったいなくて、ちびちびと読んだ。

2014/04/23

『さようなら、オレンジ』岩城けい(筑摩書房)


第29回太宰治賞受賞作。
岩城けいさん、初めて読んだ。
文章がどうこうよりも、内容が面白かった。すごくいい構成だと思った。
ずんずん読めて、あっという間に読めてしまう。

サリマ、オリーブ、ハリネズミ。
人の名前のネーミングのセンスがいい。私はキャッチコピーのセンスのないから羨ましい。
サリマはアフリカ出身、オリーブはイタリア出身、ハリネズミは日本。
サリマとハリネズミが主人公で、場所は英語圏の海沿いの小さな町。
様々な人種の人間の内面や風景景色を丁寧にしっかり描いていて、気持ちよく読めた。