2012/04/10

『天頂より少し下って』川上弘美(小学館)


 島田利正さんの『妙高の秋』を読み始めていたのだが、体調が良くなかったから軽いものを読みたくてずっと読まずに棚にあった川上さんの『天頂より少し下って』を手にとってみた。
 で、あっさり終ってしまった。これまで読んでいたものからいきなりこういうのを読むと絵本か児童書みたいに感じる。
 昔は川上さん好きだったんだけどなぁ。
別に嫌じゃないし、読みやすいからいいんだけど、こういう本を読んで「本を読んでいる」とは言えないように思うというか。
 でも、読み終えたらどうしてだか、何年も前に突然死んでしまったある人をいきなり鮮明に思い出してびっくりした。ここ最近その人のことはあまり思い出さなくなっていたのに、読み終えた途端に「ぽん」とその人がくっきりと現れて、本当に驚いた。川上さんの小説が女子小説だからかな(もしかすると、思い出したくなくて川上さんや小川さんや絲山さんを読まなくなったのかもしれない)。
 他の本を読んでいてもその人のことはうっすらと思う。でも大概そういう場合のその人は「愛」とか「死」とかのような広い観念のようなもので、実際の人として存在しない。
 それなのに、今回はそうではなくその人が実体としてまるで昨日会ったみたいに存在した。どぎまぎしてしまうくらい顔や声や肌や体温が近くにあって、どうしていいのかわからなくなって、死んでしまってもいいなと思った。
 いつもその人を思うのは嘘っぱちな感情だったんだと思った。うまく言えないけれど、たくさんの突起物があったはずなのに擦り過ぎてその突起物が消えてしまって元の形が分からなくなるような。
 最近の私が持っていたのは丸くなった元突起物のたくさんあったはずのもので、あの突起物は痛かったなトゲトゲしていたなと思い返しているだけなのだ。なんかそういうのって嘘っぱちな感情という気がする。