『ボートを漕ぐもう一人の婦人の肖像』に続けて、『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』を読んだ。
こちらも良かった。こちらの方がより小説になっている。
『遠ざかる島』は短篇、『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』は連作小説、『黒い塀』はエッセイのように見えるごく短い話の集まり。
『ボートを漕ぐもう一人の婦人の肖像』はおとぎばなし風だったが、『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』は下町の子供たちの暮らしが書かれている。
子供の目線ということもおもしろいが、構成や時間の流れや主人公(語り手)の入れ替わりなど、ありそうでない書き方がほんとうにおもしろかった。
少年少女の、純粋で素朴な姿の描写は、生きている感じが伝わって来た。戦後間もない下町の風景が目の前に広がっていた。
本から顔を上げるとすぐそこに物語中の子供たちが走り回っているのではないかと錯覚するくらい、辻さんの文章には生命感と空気感が溢れていた。
映画を見ているようだった。