ほとんどの文章にマーカーを引きたくなるくらい全てが興味深く全てがなるほどと思う本だった。
ただでさえ薄い本の1/3は絵画の写真なので(これがカラーだったらもっと良かった)、読み物としては短い。
それでも素晴しい本だと思う。
ピカソについてだけでなく、人種によるアートの捉え方や人種による元々の性質についてや時代とアートについて等々、様々な面で著者の考察はとても分かりやすく納得出来るものばかりだった。
特にピカソがスペイン人であることに留意しているところが私にはしっくりきた。私もピカソは実にスペイン的だと感じていたし(著者のように説明できるわけではなく直感的に「ピカソはすごくスペインぽい」と感じていた)、人種による感覚の違いというのがあると考えているので、著者の意見に納得する事ばかりだった。
作者のガートルード・スタインは自身で言っているが、文章におけるキュビストであり実際にピカソと親交のあった人物で、彼女だからこそ書けるピカソ論であるところがいい。
訳者の植村鷹千代氏があとがきで書いているが、まったくその通りだと思うので少し引用しておく。
「多量なピカソ論の中でスタイン女史のこの本はまことにユニイクな本である。(中略)ピカソの藝術を、二十世紀という世紀の現實のクリマとスペイン人としてのクリマとの一致ということの上に焦點をつけて論じているスタイン女史の論旨は大變異色のある論旨だが、この論旨はピカソ藝術が何故に二十世紀の繪畫史の上で偉大な勝利を獲得したかということ、なぜ二十世紀の繪畫がフランス人の手で典型的に創造されなかつたかということを理解する重要な鍵に触れていると思われるのである。」
おススメの1冊。