2010/07/22

『素粒子』ミシェル・ウエルベック(ちくま文庫/野崎歓 訳)



 頭のスッキリしている時でないと読めない。もしそうでない時に読んだらまるでチンプンカンプンに終わってしまう。得意ではないフランス文学であることに加え、素粒子というタイトルからもわかる通り私の苦手とする類の言葉が溢れているわけである。じっくりと言葉を読み、その言葉が物語の中で何を意味し、どんな作用をもたらし、どう繋がっているのかを考えなくてはいけない。だからとても疲れる。
 生物学から始まって自然科学、原子論、哲学に至るまで、とにかく難しい。

 結論として、たぶん、唯物論を語っているんだと思う。そこには当然「愛」と「死」というテーマも絡んでくる。

 私は唯物論的に広く大きく物事を捉えられるタイプの人間じゃないから、分かるけど共感はない。
 Amazonのレビューで、「好き嫌いがはっきり分かれる作品。冷静・分析タイプに向いている」と書いている人がいたけれどまさにその通りだと思う。

 難しいとか共感はないとか言ったけれど、新しい発見というか新しい思考というかいつもの自分にないものを得るという意味で興味深かったし作品として面白かった。びっくりする結末だし、話の構成も展開も手法も素晴しいと思う。
 読み終わった時には「なるほどすごい作品だなぁ」と感嘆せずにはいられなくなる。

 ただ、物語の中盤は無駄にエロチックな描写が多いし、作品全体のトーンが暗いから(哀しい暗さではなく狂っていたり歪んでいたりする根の暗い不健全さのような暗さ)残虐な描写は吐き気がするくらい気分が悪いし、削除してもいい箇所も多くあるように思う。