『青い沼』島村利正(新潮社)
「青い沼」「乳首山の見える場所」「北山十八間戸」「城址のある町」「絵島流罪考」が収められている。
「絵島流罪考」はちょっと毛色が違うが、どれも男と女の話である。
しかも爽やかで単純な恋愛ではなく、生ぐさい感じのする質のもの。
生臭いというのはぬるぬるしたと言ってもいい。
咽の奥につっかえるような、やるせないような、すっきりしない感じが、私には現実味に感じられた。
とくに「青い沼」がやっぱりいちばん良かった。
島村さんは女を描くのが巧い。どうしてそんなに女の気持ちが分かるのだろう。
この『青い沼』に収められている短篇は女の嫌らしいところが描かれていておもしろいと思う。
女の狡さや弱さや強かさ。現代の作品にはあまり見られない類の女たち。現代の作品の女たちは嘘っぽく感じられる。私は島村さんの描く女たちの方に共感する。