2011/09/30

丸谷才一『樹影譚』(文藝春秋)





わざと「云ふ」とか「しませう」とかいう旧仮名遣いにしているのが雰囲気を出していると思った。
それが無いときっと、アレ?と思ってしまうような気がする。
丸谷さんのつくり出したい世界は現代言葉ではちぐはぐになってしまう。

旧仮名遣いの言葉たちはレトロな雰囲気を醸し出して、さながら竹久夢二の絵のようだと思った。大正ロマン。
だから、登場する男の子も女の子も私の頭の中では夢二の絵のような顔と服装で、色彩も夢二の絵になっていた。

小説をつくるのがうまいなぁと思う。
『樹影譚』の終わりの2ページは、どうしてだかゾゾゾと鳥肌が立った。じわーっと怖い。闇が迫ってくる感じ。
『夢を買ひます』は、「ね、聞いて聞いて聞いて。」と女の子が喋る書き出しで、その女の子がずっと語っていく形をとるのだけど、話している部分と物語の部分の組み合わせの匙加減がうまい。
始終、うまいなぁ、というのに尽きた。

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【 初出一覧 】
鈍感な青年   文學界1986年 1月号
樹影譚     群像 1987年 4月号
夢を買ひます  新潮 1987年12月号
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