2015/04/17

『太宰治との七年間』堤重久(1969年/筑摩書房)


すごく面白かった。
人間太宰治を知ることが出来るおススメの本。

著者の堤重久さんは太宰の弟子であり、『正義と微笑』の中のお兄さんである。事実『正義と微笑』は堤さんの弟さんの日記を元に書かれたものだということは聞いて知っていた。でもどんな師弟関係だったのかは知らなかったので、本書はとても興味深く読むことができた。
読み始める前にまず巻頭のモノクロ写真を見て、「なんていい写真なんだろう」「太宰治ってこんなに穏やかに笑うんだ」と、感極まった。

太宰治の装丁をやる前に読めればよかった。太宰自身がどんな気持ちで作品を書いたのか、どんなことからその作品ができたのか分かっていたら装丁も違ったものになったのにと思う。
元々の太宰治の本の装丁はそれほど力の入ったものがない。それについてもこの本の中で太宰自身がこう言っている。
「おれは、不運な男でねえ。いつでも、おれの本の装幀は不出来なんだ。なにもかも、任せっきりで、注文つけないせいもあるんだがーー。この『千代女』など、ま、出来がいい方だね。装幀者が、めっぽう、力を入れてくれたらしいんでね」(p53)
へえ、そうなんだ、と、面白く思った。それから、どこに書かれていたのかさっぱり見つけられないのだけれど、何かの本の装幀を有名な誰かに描いて貰って喜んでいるというのもあったはずで、子供みたいな人だと思った。

これを読んで、太宰治という人間が普通に生きていたということに気付かされた。作品を通しての太宰ではなく、弟子の堤さんから見た、生活していた太宰治。当り前のことなのに普通の人間としての太宰治がいたのだということにハッとした。下ネタを言って酒ばかり飲んでよく喋る太宰治。根っこは作品から受ける印象の太宰だけど、喋っている生きている太宰はやっぱり作品とは違う。
苦悩の人、心を病んで自殺した太宰治、という印象が一変する太宰治の姿がこの本にはあった。
だから私はそんな太宰治に会って何だかホッとした。救われたというか安心したというか、ただただ「ああ、よかったなぁ」と何故だか安堵して、楽しく読んでいた。

ところが、最後の方になって山崎富栄さんが出て来ると、彼女と心中することを知っているから次第に楽しく読めなくなってしまった。こんなに愛すべき人なのに、子供みたいな人なのに、書くことが大好きな人なのに、何故自ら命を絶たなければならなかったのだろう、と悲しくなった。死んで欲しくないと思って読み進めることができなくなってしまった。
心と体を壊してゆく姿が苦しくて辛かった。

肺を病んで余命わずかだと思っていたというのも知らなかった。それで自殺なのか、と納得がいった。

太宰先生と堤くん。ふたりのとてもいい関係が、読んでいてとても気持ちが良かった。