2014/02/14

『桐の花』島村利正(日本経済新聞社)


随筆ばかり読んでいたので、久しぶりの小説にはじめ少し戸惑った。
しかし物語というのはずんずんと読めてしまう。気付けばあっという間に読み終えてしまった。

川越の指物師の娘、冬子の物語。指物師とは家具職人のことである。
腕のいい父と、家業は継がず勉学に励む兄と、兄に代わって家を守ろうとする冬子を中心にした物語で、あとがきを読むまでこれが実話だとは知らなかった。
他の島村さんの小説とは少し違うように感じたのは実話だからかも知れない。

それにしても、やはり島村さんは暗い。ユーモアがない。けれども私はそれが好きなのだ。島村さんは哀しみのある文章を書く人だと思う。
淡々としていることがかえって哀しみを深くさせる。しゃべりすぎないことで人物が生きて来るように思う。

冬子さんは強い。美人で性格も頗る良い。そういう女性を現代(いま)書いたらきっと厭味になってしまうのだろうが、昭和初期が舞台ということと島村さんが書くということで全く厭味なく素晴しい女性だなぁと憧れる女性になっている。(女性と言ったが冬子さんはまだ10代の女の子であるのだが。)

色々な人たちが登場し、皆人柄良く、それゆえにじんとくる哀しみが広がって来る。
話し言葉、何をどう話すか、というところの書き方が島村さんは巧いのだと思う。少ない声でその人物のすべてを映し出している。

指物師の細かい描写や風景のなかの音、香り、そういうものも丁寧で美しかった。

やっぱり島村さんはいい。