2016/02/16

橋口幸子『いちべついらい 田村和子さんのこと』(2015年 / 夏葉社)

田村和子さんがどんな人だったのか分かる本。
これまでぼんやりとした想像でしかなかった和子さんが、実在した人として輪郭がくっきりした。

印象に残ったのは、ねじめ正一さんの『荒地の恋』を読んだ和子さんが「あの本のなかの私は嫌だな。わたしがすれっからしの女に書かれている。」と、作者橋口さんにプンプンするというエピソード。
私にはこのエッセイの和子さんも『荒地の恋』の和子さんもさほど変わりはないし、どちらかというと『荒地の恋』の和子さんの方が真面で可憐で、『いちべついらい』の方はかなり身勝手に思えるけれど.....。

作者の橋口幸子さんは田村和子さんと一緒に住んだり面倒をみていて、こういう人とよく一緒に居られるなぁと思った。それくらい和子さんは面倒な人。面倒な人だけど苦しいほどの哀しみをも感じる人。

和子さんのその風変わりな人柄は、父親が彫刻家高田博厚であることが影響していると思う。人格よりも才能があることが大事で、父親が一番の天才で二番目が夫の田村隆一さんだった。天才が身近にいるというのは精神的に何か影響を及ぼすと思う。
それに早くに優秀な母も亡くし、小学生の時には賢い妹も亡くしている。自分も16才~22才まで結核療養所にいた。死が身近にあること、死がもたらす深い喪失。
和子さんの身勝手さや我儘さはそういう背景の上にあるので厄介な気がする。