2010/11/25

『町でいちばんの美女』チャールズ・ブコウスキー(新潮社/青野聰訳)


そうだった、ブコウスキーってとにかく下品で卑猥なんだったっけ、と、読み始めて思い出した。すっかりうっかり忘れていた。

たらの芽書店で見かけて思わず買ってしまったのだけど、これを読んでいると言うのは憚られるくらい、まぁ、下品で卑猥なわけで。読み始めは買ったことをちょっと後悔したりもした。

それでも、最初の「町でいちばんの美女」はかなりいい短編で、結構好き。
ところが2つ目からは、、、。

でも、読み進めているうちに下品で卑猥なだけじゃなくなってくる(もしかしたらそれに慣れてくるだけかもしれないけど)。
後半は哀愁というか切なさのような感情だったり生きることそのものについてだったりが強く出て来て、もう残り少ないなという頃にはちょっと名残惜しくなってもくる。

で、結局、悪くない、という心持ちで終わるから不思議。

2010/11/16

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー(早川書房/村上春樹訳)


絵と小説は似ている。どちらも純粋に直感的に好き嫌いが出る。しかし、生み出した人物の像、意図、時代背景、生きた土地、そういうものを知るとまた違って見えてくることもある。

レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』、ティム・オブライエンの『世界のすべての七月』は村上春樹氏のあとがきを読んで、より理解を深めるところの多い作品だった。

主人公であり物語の目となるフィリップ・マーロウ。私は読み初めからこのマーロウに違和感があり、どうにも居心地が悪かった。それは私が普通の人物としてマーロウを捉えようとしていたからである。普通に読むように、知らず知らず主人公マーロウの人柄や考え方に共感したり思いを寄せる何かを見つけ出そうとする読み方をしていたから、マーロウという人物が掴めないというのは些か心地が良くなかったのだ。

マーロウは主人公であり語り手である。しかしマーロウは
実在していないし、実在できない。彼はひとつの行動の人格化で、ひとつの可能性の誇張である。
あくまでも「視点」であり、生身の人間というよりはむしろ純粋仮説として、あるいは純粋仮説の受け皿として設定されている。(あとがきより引用)
 このようなあとがきを読んで(本当はあとがきを全部抜粋しないと分かりにくいかもしれないのだが)それですっかり納得し、さらには興味深い良い作品だという感想になった。


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それから、あとがきで村上氏も作品の中の寄り道の文章、細部の文章が好きだと仰っているが、私も同意見である。村上氏はその例えとして金髪女の描写について挙げているが、私は鳥の出てくる部分の描写が気に入っている。
スタンドを消し、窓際に腰を下ろした。茂みの中で一羽のモノマネドリが何度かトリルのおさらいをし、その見事さに自分でもうっとりしてから夜の闇に身を落ち着けた。(p99)
というような文章がふんだんに盛り込まれている。きっとこういう寄り道の文章がなければただのミステリ小説になってしまうんだと思う。

2010/11/05

『世界のすべての七月』ティム・オブライエン(文芸春秋刊/村上春樹訳)



近所の古本屋で本棚をぐるりと見ていてこの本を見つけた。
タイトルを見て、そういえばこの本読んでみたかったんだと思い出して買ってみた。

読み始めてすぐの時は、失敗したかなと思った。でも読んでいくうちにずんずんと淡々と読み進めてしまった。

村上春樹があとがきでこう言っている。

どたばた劇として、延々と続く笑劇(ファルス)として、この長編小説を成立させている。まとまりよりは、ばらけの中に真実を見出そうとしている。解決よりは、より深い迷宮化の中に、光明を見いだそうとしている。明るい展望よりは、よたよたとしたもたつきの中に希望を見いだそうとしている。もちろん思い入れはある。しかしその思い入れは、多くの場合空回りしていて、読んでいてなんとなく面はゆく感じられてしまう。もちろんそれは意図的なものであり、決して作者が下手だからではないのだけれど、なんとなくそれが下手っぴいさに思えてしまうところが、オブライエンの小説家としての徳のようなものではないかと、僕は思う。つまり、それが偉そうな仕掛けに見えないところが、実はこの小説のいちばんすごいところなのかもしれない、ということだ。


あとがきを読んで、なるほど、そうなのか、と気づいた。
だって、どうしてだか分からないけど、時間があれば手に取って読んでしまうのを自分でも不思議な気持ちでいたのだ。
オースターのように物語に華やかさがあるわけじゃないのに、マンディアルグのようにちっとも読み進められないというのでもなく、エリクソンのように心にガツンとくるわけじゃないけど、何だか気になる、そういう気持ちでいたのだ。


そうそう、あとがきにおもしろいことが書いてあったので、こちらも引用。

僕自身はオブライエンとほぼ同世代なので、読んでいて「うんうん、気持ちはわかるよ」というところはある。世代的共感。五十代半ばになってもなお行き惑い、生き惑う心持ちが実感として理解できるわけだ。でも、たとえば今二十歳の読者がこの小説を読んで、どのような印象を持ち、感想を持つのか、僕にはわからない。「えー、うちのお父さんの年の人って、まだこんなぐじぐじしたことやってるわけ?」と驚くのだろうか?

2010/11/04

AROMA DIFFUSER



昨日、中目黒のBALSで15000円のアロマディフューザーを買った。
ずっと買うかどうか悩んでいた。だって消耗品にその金額って勿体ない。現状アロマディフューザーは小さい物6個+MUJIの超音波加湿のもの1個があるわけだし。
でも相方さんがそのアロマディフューザーの香りを気に入ってどうしても欲しいというのと、私が匂いに敏感過ぎて家の生活臭が気になるというので悩んだ挙げ句購入してしまった。

買ったのはDAYNA DECKERのZERIAというもの。
その香りは、外国のホテルのようなシダーウッドや檜の入った香り(我が家ではおっさんの匂いと読んでいる)。
匂い自体は好きなんだけど、家に置いたらなんか合わない。ウッディな匂いと家がマッチしないんだと思う(うちが全然ウッディじゃないから)。もうちょっと爽やかなものか甘いものにすれば良かったかな。
それでもやっぱり高価だからか香りは強くて、生活臭が消えていい感じではある。


注)瓶はIKEAで買ったものです


2010/11/02

「日本画と西洋画のはざまで」@山種美術館



久しぶりに興奮した。興奮と感激でぶるぶる震えた。

本当に素晴しかった。
時間があって近くに住んでいて絵画に興味のある人は絶対に行った方がいい。
私はもう一度行く。今度は開館と同時に行く(今日は混んでいてしかもうるさい人ばかりで残念だったから)。

見たかった絵が結構あったし、知らなかった作品も知っている作品も殆どすべて素晴しい作品だったし、どれも写真で見るより断然良かった。どれも色が素晴しく美しかった。

渡辺省亭の《迎賓館七宝額下絵帖》は見てみたかったし(インコの腹の質感なんてものすごかった。色もすごく綺麗で美しくて。構図も素晴しくて。ドキドキした)、好きな竹喬まであったし(これまた良かった)、今回の目玉にしている岸田劉生の『道路と土手と塀』も本物は本当に素晴しかったし、小林古径の静物画も本当に美しかったし、もー本当に嬉しくって仕方がないくらい全部良かった。

荻須高徳の『街風景(メニルモンタン)』も良かったなー。梅原龍三郎も良かったし、土牛の『雪の山』も本物は良かったし。和田英作の『黄衣の少女』なんてそこに人がいるみたいに写真みたいにリアルだったし、いや、ホントに、もう、全部良かったわけです。

未だ興奮冷めやらぬわたくしです。

山種美術館

2010/10/30

尾崎一雄、シェイクスピア



『昔日の客』の中に、尾崎一雄氏の名前が頻繁に出てくる。
そういえば実家で並んでいるのを見かけたなと思い、今回実家に帰ったので聞いてみた。
すると
「俺じゃないよ」と父。
「私も見た」と妹。
「俺じゃない」とさらに父。
「でも、見た」と妹と私。
結局、祖父のところだったので今回は尾崎一雄はやめにした。
代わりにシェークスピアを借りて来た。
父の本だからかなり色も変色している。開くと古本ならではの匂いがする。
新潮社のシェイクスピア全集、福田恆存訳、昭和35年発行で定価の「価」の字は「價」になっているくらい古い。
借りて来たはいいけど、追々になってしまいそうな気がする。

ドレスの試着

来年妹が結婚式を挙げる。
ドレスの試着に付き合った。

2010/10/26

書道



私は賞状技法士の免許を取るために通信教育で書道を習っているが、叔母も書道を習っている。
その叔母の通う教室の書道展が28(木)〜31(日)日の会期で麻布十番で開催される。
叔母から書道を習っているとは聞いていたけど、書道展を開くような類の書道だとは思っていなかったからDMが届いた時はちょっと驚いた。

私の方は11/21日に1級の試験があって受けるかどうか悩んでいたのだけど、やっぱり今年は見送ることにした。課題提出だけでも結構手一杯なのに、仕事が入っちゃったからちょっと無理かなぁ、と。
来年1級試験用の講座を取って、それで受ける。今やっている講座はこのままいけば3級はたぶん取得できるし。
というわけで今も提出課題と格闘中。

studio issai http://www.tanakaissai.com/school/

2010/10/23

『昔日の客』関口良雄(夏葉社)


東京大森の古本屋「山王書房」店主、関口良雄氏の随筆集。

天気の良い初秋の穏やかな日のような、木漏れ日がつくった日溜まりのような、そんな本だった。長閑なほっこりとしたあたたかさが包み込んでくれる。
いい本だなぁと思う。

日溜まりの温かさのような本であると同時に、ここには沢山の死が在る。その死が関口氏の語りによって何とも言いがたく心にぐっと染みる。

最後のあとがきは息子さんが書いてらっしゃるのだが、これがとにかく泣けた。
読んできた最後にやってくる話として最高の話だと思う。
これまであとがきを読んで泣いたことなんてない。本当に号泣した。後から後から涙がぽろぽろとこぼれて来た。

本当にいい本だなぁとしみじみ思う。買って読んでよかった。